今回の那須での雪崩事故は若い命が多く奪われるとても痛ましい事故でした。

今後はこの事故の的確な検証が行われて、登山界全体に雪崩リスク対策の知識・技術がより一層普及するきっかけになってほしいなと願います。

昨今はバックカントリー・スキーやスノーボードでの遭難や雪崩事故の報道が多いですが、全体的には雪山登山者よりもバックカントリーをする方々の方が雪崩対策の講習会の受講率や装備の携帯率が高い傾向があります。

滑走をする方たちの方がリスクの高い斜面に入るという現実を考えると、当然のことだとは思いますが、雪山登山をする方々も雪崩対策への意識を高めてほしいと常々考えていました。

雪崩事故は発生する確率は低くても発生した時の被害が甚大です。

今回の事故を受けて、リスク判断の重要性を改めて痛感しています。

 

リスクはゼロに出来ないからこそ

例えば、以下のような登山条件の違いであれば明らかに1の方が雪崩リスクが高いのは誰でも分かることです。

 1 北アルプスの森林限界を超えた急斜面のルート

 2 八ヶ岳の樹林帯を歩く緩斜面のルート

しかし、2であっても一定量の積雪があれば、局地的に雪崩リスクが存在します。

通常であれば限りなく雪崩リスクが少ない場所でも、悪天候や大量降雪、気温上昇、降雨などの環境変化でリスクが変動します。

これらのリスクの変動を理解するには、一定の知識が必要です。

また、現地での雪崩リスクの判断には、積雪断面観測の知識・技術は必要不可欠です。

積雪断面観測をせずにトレースの無い雪の斜面に立ち入るのは、竹槍で戦争をしようとするのに近いことだと思います。

 

リソースを積み重ねても、なお判断は難しい

リスク判断、リスク回避する行動、事故発生後の対処など、具体的な知識、技術、経験値を積み重ねて、個人として組織として能力と資源(リソース)を豊かにすることでしか、登山の安全度合いを高めることはできません。

あらゆる事故に対して無敵な登山者など存在しない以上、私たちはこの具体的なリソースを積み重ねていくしかないのです。

しかし、それでも最新の知識・技術を学び、最高スペックの装備を揃えたとしても、的確にリスク判断をするのはベテランであっても難しいのです。

人間が下す以上、常に適切な判断が出来るとは限らない。

そして、他のスポーツと違って、その判断ミスが死亡事故につながるのが登山の難しさだと言えます。

 

客観的な判断抜きにはリソースが役立たない

「気をつける」とか「注意する」とか「危なかったら引返す」など、一件安全に配慮して判断しているように思える言葉を良く耳にします。

しかし、私はこれらは論理性を欠いていて、主観的で抽象的な安全意識だと思っています。

今回の事故も予定していた茶臼岳登山は中止していますが、スキー場横であったとしても、リスクのある雪面に侵入したことに変わりはありません。

結果から考えると、安全に配慮したつもりで、十分な配慮ではなかった。

主観的、抽象的な安全意識から抜け出せていなかった結果ではないかと思います。

 

ただ、今回たまたま栃木で事故が起こっただけで、他の地域でも起こりうる事故だとも感じています。

自分ごととして捉えてみると、やはり主観的・抽象的な判断ではなく、客観的・具体的な判断基準に基づいて登山をすることの重要性を感じます。

 

最後に、今後は引率教員の指導責任を問う報道があるかもしれません。

適切な指導体制ではなかったとは思いますが、専門職ではない教員の皆さんに出来る指導体制には限界があると思います。

この点は、折を見て触れたいと思っています。