★追記情報(2014/03/26)

Nature Guide LISでは、アイゼン・ピッケルを使って残雪期に登るガイドツアーを少人数制で実施することにしました。夏には出会えない雪の時期の美しい光景に出会いたい方、特別な富士山体験にチャレンジしてみたい方、ぜひお待ちしております。

詳しくはこちら ⇒ 「残雪の富士山登頂 と 雪上技術訓練」


 

富士山での外国人2名の遭難事故について(1)

「事故と救助活動のご報告」

昨日、5月24日に発生した富士山での2名の外国人旅行者の遭難事故について、既にニュースで報道されていますのでご存知の方も多いと思います。

この日、友人と二人で富士山を登っていた私は、雪山装備を持たないチェコ人の男性Aさんと富士宮ルート9合目で出会い、救助活動を行いましたので、その内容をこの場でご報告させて頂きます。

ここでは便宜上、救助されたチェコ人男性をAさん、行方不明のスロバキア人男性をBさん、Aさんの第一発見者で単独登山者の方をCさん、友人をDと表記いたします。

【報道内容】

行方不明:スロバキア人が富士山登山中に /静岡(毎日新聞・Yahooニュースより)

【Aさんと出会うまで】

この日は、友人Dと二人で積雪期の富士登山に来ていました。
私は積雪期の富士山は何度も来ていますが、友人Dは3回目でいずれも途中までだったので、今回は積雪期の初登頂を目指していました。
天候も良かったので、夜明け前の富士山の美しさも味わいたかったので、未明に登り始めました。

今年は積雪が多く、6合目の山小屋裏手から雪があり、アイゼンをつけて登り始めました。
この頃、8合目付近にヘッドランプの灯りが見えたため、先行の登山者がいることが分かり少し驚きました。
夜中の2時半に8合目にいるということは、さらに登って頂上でご来光が可能なタイミングです。
しかし、夏ならまだしも、この時期にこのような登り方をするのは危険なので、そんな登山者はほとんどいません。

私たちは、休憩を交えながらゆっくり登っていき、元祖7合目付近で5時頃ご来光を迎えました。
未明から風が弱く快適な登山環境でしたが、ご来光の直前頃から風が吹き始めました。
と言っても、登山には支障がない富士山では良くある程度の風です。

私たちは、元祖7合から8合目へは直登すると傾斜がきついため、東寄りに巻いて登っていました。
そのため、8合目に着くころに、直登してきた単独のCさんに追い抜かれました。

そして、Cさんは快調なペースで登って行ったため、私たちがちょうど9合目に着くころ、山頂直下の急斜面で四つん這いで下山してきたチェコ人のAさんと出会っていました。
Cさんは雪山装備を持たないAさんと出会い、助けるべきかどうか悩んだそうですが、放っておけないと思い、ピッケルを貸して付き添いながら一緒に下山をしてきました。

私たちが9合目での休憩を終えて登り始め、しばらくすると、9合5尺の山小屋付近から下りてくる、AさんCさんの二人が目に入りました。
深夜から登っていた先行登山者が四つん這いで降りてくるAさんだということはすぐわかりました。
Cさんが付き添って降りて来ているところで、何となく状況が飲み込めました。
さらに、Cさんが手を振って、こちらに救助を求める合図をしたこと、遠目にAさんがジーンズを履いているのが分かったことで、私の予想が確信に変わりました。
「アイゼン持ってきてないんだ。」

数日前の日食観測の日に、ドイツ人男性を含む、無謀登山者が救助されたことがニュースになったばかりでした。
この時、雪山装備を持たない登山者を救助することの難しさを感じ、そんなことをツイッターに呟いたばかりでした。

放っておくわけにはいかないですし、助けなければならないわけですが、正直に言って、「こんなバカな登山者のために俺は死にたくない」わけです。

救助するからには、救助者、要救助者全員が無事に下りなければなりません。
誤解を恐れずに言えば、自分達の安全が疎かになるのであれば、救助をしてはいけないのです。

「さぁどうする?」
自分の中での葛藤と苦慮がはじまりました。

【救助活動】

Aさん、Cさんと合流し、ひとまず9合目の山小屋まで下りることにし、Aさんが足を滑らせてもすぐにフォローできるよう傍に付き添いました。

まず、アイスバーンというほどではなかったですが、朝一の締まった硬い雪面の中を下山するよりも、昼間の緩んだ雪の方がはるかに安全なので、9合目で一旦待機することにしました。
私とCさんが持参していたツェルトを山小屋の脇に張り、風を避けられるスペースを作りました。

次に一緒に下山が出来るかどうか、です。
雪山でのアンザイレン(ロープでの確保技術)の経験はもちろんあります。
富士山でもあります。
でも、アイゼンを付けてなくて、さらにスニーカーの人を確保したことなんて、もちろんありません。

私はガイドの時だけでなく、いつも補助ロープを持っています。
そして、今回は雪山だったので、私も友人のDもハーネス(登山用ウェストベルト)を持ってきています。
なので、友人DのハーネスをAさんに装着してもらえれば、私がAさんをロープで確保することは可能です。

しかし、一番重要なことは、雪が緩んで柔らかくなること。
ツルツルの雪面では、自分よりも巨体のAさんを確保できる自信は私にはありません。
とにかく雪が柔らかくなり、なおかつCさんと友人Dに先行して、足場を作りながら下りてもらえれば、安全に下りることが出来そうです。

この日は高気圧に覆われ、とても天気が良かったので、お昼近くなれば気温が上がり、雪が緩んでくることはほぼ間違いがありません。
今までの私の経験上、11~12時頃に下山を開始するのが理想的と考え、下山開始をこのあたりと決めました。
しかし、周囲の空を見ると、いつもよりも上空に薄雲が広がるのが早く、麓からの雲の湧き上がりも早い気がしました。
未明と比べると風が出てきていることもあり、下山をはっきり11時には始めた方がいいと思い直しました。
午後になって雲が広がり風が強まった場合、一気に気温が下がって、再び雪面が硬くなってしまう状況を避けたかったからです。

下山まで、全員で時間をつぶす必要もないので、Cさんと友人Dはまだ雪の富士山頂に行ったことがないので、山頂へ往復してきてもらうことにしました。
剣ヶ峰には行かず、富士宮の山頂に着いたら下りてくるよう頼み、二人を見送りました。

救助の方針が決まったので、110番に通報しました。
Aさんは通報しないでほしいと言っていましたが、怪我はしていなくても、これはまぎれもなく「遭難事故」であり、万が一私たちでは救助しきれない場合もありえるので、山岳救助隊にも下から登ってきてもらうことにしました。

警察との電話のやりとりで、山岳救助隊は11時くらいに登山口を出ることになるだろうから、9合目まで上がるとなれば、到着は午後遅くなるだろうとのことでした。
これは私も予想していました。
すぐに到着してくれるのなら、救助の全てを救助隊に任せて良かったのかもしれません。
救助のプロが来るのですから、一人の登山ガイドと二人の一般登山者のグループよりも確実な救助が期待できるという意味では大きなメリットがあります。
しかし、デメリットもあるわけです。
午後になれば天候が悪くなるかもしれない、Aさんの気力・体力がそこまで持つかどうか・・・etc
私が安全に下りれると思えるのであれば、出来る範囲で少しでも下山しておいた方がいいと判断し、警察の方にも伝えました。

二人が下山してくるまでは、私のつたない英語でAさんと会話をして、同い年であることが分かって、思わず握手。
このあとの下山に備え、持ってきた食料を食べまくりました。

【下山開始】

10:30頃山頂に行ってきた二人が下りてきたので、下山準備を始めました。
ツェルトを撤収し、私自身が身軽に動けるよう、荷物を少し友人Dに託しました。
すぐ使えるように用意しておいたロープを、ハーネスを装着したAさんにセットして下山を開始しました。

DSC00056.JPG
Aさん(右)にロープをセットしているところ、左が私です。

9合目から8合目へは比較的緩やかな斜面だったこと、まだ歩き始めのため、順調に下りることができました。
8合目でウェアの調整など、立ったまま小休止をしてから再び歩き始めました。

8合目直下が急傾斜となるため、ジグザグと斜めに斜面を横切りながら、慎重に下っていきました。
途中警察からの電話で、救助隊の5合目登山口出発が12時くらいになりそうだとの連絡がありました。

元祖7合目までは順調に下りてきましたが、集中力が途切れてしまうわないよう、ここで少し長めの休憩をとりました。
山頂で食べようと思って、私が持ってきていた5個入りの草大福を皆で分けて食べました。

次は新7合目へ向けての下山。
下に下りるにつれて気温があがり、しっかり雪に足が埋まるようになってきたので、滑落の危険はほとんどなくなってきましたが、転倒した拍子に捻挫などの怪我をしてしまう可能性もあるので、最後まで気を引き締めて下りました。

後半になって疲れが出てきたのか、Aさんがよろける回数が増えてきたので、タイトロープ(ロープをぴんと張る状態)でAさんが大きくよろけないように支えながら下りていきました。

新7合目で休憩をしていると、ちょうど救助隊の方々が上がってきたので救助隊に後を託し、ここで私たちの救助活動は終了しました。

【下山後】

軽装での雪山登山は、車の運転で例えれば「無免許運転」です。
色々と思うことはありましたが、それでも、私を含め3名の協力体制のもと、命を救えたのです。
彼がもし私たちと会うこともなく、あのまま徒手空拳で下山していて、無事に下山できたとは思えません。

命を救えたという点を考え、前向きな気持ちになろうと、車を走らせて街へ下りて行きました。

その後食事中に警察から電話があり、途中まで同行していて、先に下山をしていたはずのスロバキア人男性Bさんが登山口に戻っていないとの連絡を受けました。
私たちも同行の人がいたことは聞いており、二人とも雪山装備ではなかったので、「先に下山した」と聞いて、てっきりBさんは7合目あたりですぐに下山したもの、5合目の車で待っているんだろうと思っていました。

しかし・・・
それまでの気分とは一転、友人Dと落ち込みそうになる気持ちをどうにも出来ずに、今日の出来事をどうやって整理したらいいのかも分からず、家路につきました。

警察の方から「9合目までは一緒だった」、「下山していない」、「行方不明」と聞きました。
このことの意味は、現場の状況を良く知る私たちだからこそ、良く分かります。
非常に厳しい状況ではありますが、どうにかBさんに無事であってもらいたいと思います。

 

今現在、ご報告できることは以上です。
折を見て、今回の事故に関する雑感を掲載する予定です。

 

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